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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)1098号 判決

原告

永棟達也

ほか二名

被告

土師利勝

ほか一名

主文

一、被告らは、各自、原告永棟達也に対し金九六七、三〇一円および右金員に対する昭和四三年一月五日からそれぞれ支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

一、原告永棟達也のその余の請求および原告永棟敏夫、同永棟重子の各請求はいずれもこれを棄却する。

一、訴訟費用はこれを三分しその一を原告らの、その余を被告らの負担とする。

一、この判決の第一項は仮りに執行することができる。

一、但し、被告らにおいて、各自、原告永棟達也に対し金七〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

事実及び理由

第一原告の申立

被告らは、各自、

原告永棟達也に対し金一、五二八、五六八円、原告永棟敏夫、同永棟重子に対し各金二〇〇、〇〇〇円宛および右各金員に対する昭和四三年一月五日(本件不法行為以後の日)から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員(民法所定の遅延損害金)を支払え

との判決ならびに仮執行の宣言。

第二争いのない事実

本件事故発生(但し、被告徳山との関係で)

とき 昭和四一年一〇月五日午後四時五〇分ごろ

ところ 大阪市東住吉区田辺西之町八丁目四九番地先押ボタン式信号機の設置された十字型交差点内

事故車 軽四輪貨物自動車(六泉い四四四八号)

運転者 被告徳山

受傷者 原告達也(当時一〇才、足踏自転車運転中)

態様 原告達也は、右交差点を対面信号機の青信号に従つて南から北に向けて進行中、折柄、同所を西進してきた事故車に衝突され、その場に転倒、負傷した。

第三争点

(原告らの主張)

一、責任原因

被告らは、各自、左の理由により原告らに対し後記の損害を賠償すべき義務がある。

(一) 被告土師

根拠 自賠法三条

該当事実 左のとおり。

事故車の運行供用

被告土師は水道工事および冷暖房工事を業とするものであるが、その業務遂行のため事故車を保有し自己の雇用している被告徳山に事故車を運転せしめてその営業のために使用し運行の用に供していた。

(二) 被告徳山

根拠 民法七〇九条

該当事実 左のとおり。

運転者の過失

被告徳山は、前記交差点へ向つて西進中、折柄西陽に眩惑されて進路前方の信号を充分確認し得なかつたにも拘らず漫然時速三〇粁位の速度で進行していたため、同交差点直前で対面信号が赤になつているのに気づき急拠ブレーキをかけたときはすでに及ばず原告達也に衝突した。

二、損害の発生

(一) 受傷

原告達也

(1) 傷害の内容

右大腿骨折

(2) 治療および期間(昭和・年・月・日)

(イ) 入院

(a) 自四一・一〇・五―至四一・一〇・八 於阪和病院

(b) 自四一・一〇・九―至四一・一二・二八 於大阪警察病院

右期間に手術を受けたが、厳寒時に日夜激痛があつた。

(ロ) 通院

自四一・一二・二九―至四二・八・一五

退院後、昭和四二年四月上旬までは殆んど毎日通院し、その後、同年八月一五日骨折部分が完全に化骨するまで通院した。歩行可能となつた後も同年六月末まで松葉杖を使用した。

(3) 後遺症

(イ) 走行不能、長距離歩行の場合に跛行する。

(ロ) 右足の屈伸が完全に出来ず、屈伸角度が二〇度位あるため正座ができない。

(ハ) 右大腿部に長さ一五糎以上の著明な手術痕が残り、長ズボンをはいて隠さねばならない状態にある。

(二) 療養関係費

原告達也の前記傷害の治療のために要した費用は左のとおり。

(1) 通院治療費 三二、一二〇円

但し、昭和四二年一月一九日以降の警察病院における治療費

(2) 入通院時交通費 四五、一九〇円

(3) 入院雑費 六、五四六円

(4) 滋養食品 一四、七一五円

(三) 家庭教師料 三〇、〇〇〇円

原告達也は、小学校四年に在籍中であつたが、本件受傷によつて昭和四二年三月末まで休学を余儀なくされ、その間学力低下を補うため家庭教師を雇わざるを得なくなり、家庭教師料として金三〇、〇〇〇円を支出した。

(四) 精神的損害(慰謝料)

原告達也 一、二〇〇、〇〇〇円

原告敏夫 二〇〇、〇〇〇円

原告重子 二〇〇、〇〇〇円

右算定につき特記すべき事実は次のとおり。

(1) 前記傷害の部位、程度とその治療の経過および後遺症

(2) 原告達也は、事故当時、学習上および将来の人格形成上最も重要な小学校四年に在籍中であつたが前記の如く長期にわたり休を余儀なくされた。

(3) 前記後遺症のため学校における運動、体育課目において非常な劣等感をいだくようになり、また、雨降りの前には患部が痛み言語に表現し難い精神的苦痛を味つている。

(4) 原告敏夫、同重子は将来の成長を期待していた愛児に重傷を負わされ、徹夜で付添看護し、さらに不自由な身体をひきづつて通院、登校した達也に付添い、骨折は化骨したものの前記の後遺症のため原告達也が肉体的にも精神的にも将来健全な発達をとげるかどうか大きな不安をいだいており、精神的に甚大な打撃をうけた。

(五) 弁護士費用

原告達也が本訴代理人たる弁護士に支払うべき費用は金二〇〇、〇〇〇円である。

第四証拠 〔略〕

第五争点に対する判断

一、本件事故発生(被告土師との関係で)

原告ら主張のとおり。(〔証拠略〕)

二、責任原因

被告らは、各自、左の理由により原告達也に対し後記の損害を賠償すべき義務がある。

(一)  被告土師

根拠 自賠法三条

該当事実 原告ら主張のとおり。(〔証拠略〕)

(二)  被告徳山

根拠 民法七〇九条

該当事実 原告ら主張のとおり。(〔証拠略〕)

三、損害の発生

(一)  受傷

原告達也

(1) 傷害の内容

原告ら主張のとおり。(〔証拠略〕)

(2) 治療および期間(昭和・年・月・日)

(イ) 入院

(a) 自四一・一〇・五―至四一・一〇・一〇於阪和病院

(b) 自四一・一〇・一一―至四一・一二・二八

於大阪警察病院

同年一〇月一二日観血的整復術施行。同年一二月九日抜釘、松葉杖歩行開始。同月二〇日松葉杖歩行中軽倒し骨折部屈曲したためギブス固定。

(ロ) 通院

自四一・一二・二九―至四二・九・一六(〔証拠略〕)

(3) 後遺症

(イ) 右足の屈曲が完全にはできず、正座ができない。

(ロ) 走行不自由、歩行時やや跛行

(ハ) 右大腿部に手術痕が残つている。

(〔証拠略〕)

(二)  療養関係費 合計八七、三〇一円

原告達也の前記傷害の治療のために要した費用は左のとおり。

(1) 通院治療費 三二、一二〇円

但し、昭和四二年一月一九日から同年九月一六日までの大阪警察病院における治療費。(〔証拠略〕)

(2) 通院時交通費 三三、九二〇円

警察病院への通院交通費。往復六四〇円。五三回分

(〔証拠略〕)

(3) 入院雑費 六、五四六円(〔証拠略〕)

(4) 滋養食品 一四、七一五円(〔証拠略〕)

(三)  家庭教師料 三〇、〇〇〇円

原告ら主張のとおり。(〔証拠略〕)

(四)  精神的損害(慰謝料)

原告達也 七〇〇、〇〇〇円

原告敏夫、同重子 不認容

右算定につき特記すべき事実は次のとおり。

(1) 前記傷害の部位、程度とその治療の経過および後遺症

(2) 長くギブスをはめ動かせなかつたため床づれ、ただれができた。

(3) 原告敏夫、同重子らが愛児の負傷により少なからざる精神的苦痛を味うであろうことは容易に推認できるが、前記認定の傷害、後遺症の程度からはいまだ右原告ら固有の慰謝料請求は認容し難いといわざるを得ない(最判昭和四二年六月一三日例集二一巻六号一四四七頁参照)。但し、かかる事情を斟酌して前記慰謝料額を算定した。(〔証拠略〕)

(五)  弁護士費用

原告達也はその主張の如き債務を負担したものと認められる。

しかし本件事案の内容、審理の経過、前記の損害額に照らすと被告らに対し本件事故による損害として賠償を求め得べきものは、金一五〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。(〔証拠略〕日本弁護士連合会および大阪弁護士会各報酬規定、弁論の全趣旨)

第六結論

被告らは、各自、原告達也に対し金九六七、三〇一円および右金員に対する昭和四三年一月五日(本件不法行為以后の日)からそれぞれ支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払わねばならない。訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条仮執行および同免脱の宣言につき同法一九六条を適用する。

(裁判官 上野茂)

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